Google DX構築編(3)「お客様別ノート」は、どこまで質問に答えるか

前回の記事で、打合せの後にボイスメモを吹き込んで、「お客様別ノート」に入れる手順をご案内しました。
ここまでで、たぶんこう思われた方が多いと思います。
「溜めて、それで何になるのか」
今回は、そこをお見せします。3回分の所感を溜めた「お客様別ノート」に、実際に質問を投げました。質問した文も、返ってきた答えも、画面をそのまま載せます。
1.所感3回分を、こう吹き込みました
この記事の記録について
ここで使う記録は、実在の案件ではありません。練習用に作成した架空のものです。
打合せの流れも、実際に住宅会社の営業の方に伺ったうえで組み立てた設定です。回数や進め方は会社によって違いますので、そのまま当てはまるものではありません。
K様という架空のご夫婦です。ご主人がフルリモート勤務、小さなお子さまがお一人。土地と資金の目処が立ったところからの打合せで、3回目・4回目・5回目の3本を吹き込みました。
1回目と2回目の記録はありません。前々回の記事でお伝えしたとおり、記録を始めるのは「このお客様は弊社の家を買える」と分かった時点から。K様の場合は、それが3回目でした。
吹き込みの型は、3本とも同じです。
日付・お客様名・回数 → 今日決まったこと → 決まらなかったこと → 所感

録音時間は、2分12秒から3分03秒。打合せを終えて、お客様をお見送りした後の車の中で吹き込んでいます。
3本とも、全文をそのまま載せます。読み飛ばしていただいて構いません。この後の答えが、どこから出てきたものかを確かめたくなったときに、戻ってきてください。
20260612_K様_第3回_記録と所感(詳しいヒアリングの回)
2分12秒
2026年6月12日、K様、3回目の打合せです。今日から詳しいヒアリングに入りましたので、ここから所感も録音しておきます。
えー、土地のほうは前回までに決まっていますので、今日から本格的に間取りの話に入りました。延床、まあ28坪くらいですね。当初思っていたより広くは取れない、というのが確定した形です。
今日決まったことは、大きくは二つで。一つは、2階に寝室と水回りをまとめる方向。もう一つは、1階のLDKをできるだけ広く取る、と。
で、ご主人からあらためて出たのが、フルリモートなので、家のどこかに集中できる仕事の居場所がほしいと。これはもう最初から一貫しておっしゃってますね。
ただ、奥様のほうからは、あー、家族の気配は感じていたいと。ただリビングでくつろいでいるときに、仕事の声とか画面が混ざるのは避けたい、というお話がありました。
決まらなかったのは、その仕事場をどこに置くか、です。個室をもう一部屋、というのは、この広さだと正直厳しい。次回、プランにしてお持ちする、ということで持ち帰りました。
所感としては、うーん、増やす方向では解けないなと。増やせないので、どこを優先するか、という話から入るしかない。優先順位を決めるところが、たぶん今回の設計の出発点になると思います。
あと、これは記録として残しておきますけど、K様、もう1社さんにも声をかけられているみたいです。はっきり言われたわけではないんですが、話の中で、そういう含みの言い方が何度かありました。
ご覧のとおり、話し方は整えていません。「えー」も「うーん」も、そのままです。文章にしようとすると手が止まりますので、そこは気にしないでください。
20260628_K様_第4回_記録と所感(1回目のご提案)
基本プランと概算見積、概算スケジュールを一式お持ちした回です。2階に3畳ほどの独立した書斎を設ける案でしたが、奥様からご懸念が出て、取り下げることになりました。
2分47秒
2026年6月28日、K様、4回目の打合せの記録と所感です。
今日は基本プランと、概算見積、あと概算のスケジュールを一式お持ちしました。プランのほうは、2階に、独立した書斎を設ける案です。3畳ほどですけど、扉を閉められる個室で。
ご主人は、プランについては、まあ悪くない反応で。静かなのはいいですね、と。
ただ、奥様が引っかかられました。2階に上がってしまうと、いるのかいないのか分からない、と。お子さんもまだ小さいので、日中も家にいるわけで。あー、そうか、と。
で、そこからご主人にもう一度お聞きしたんですけど、集中したいというのは、閉じこもりたいということではないと。家族の気配は、むしろあったほうがいい。混ざらなければいい、という言い方をされていて。ここ、大事だなと思いました。
今日決まったのは、2階は寝室と水回りに集約、というところまでです。
決まらなかったのは、仕事場の位置ですね。2階の個室案は、いったん取り下げる方向で。プランも見積も、修正して次回あらためてお持ちします。
あと、今日は本当は、設計契約のお話まで進めたかったんです。ただ、プランの修正が出ましたので、そこは次回に回しました。
所感です。切り離してしまうと、静かにはなるけど孤立するんですよね。ご主人が言っている集中と、こっちが用意した個室が、たぶんずれてる。閉じるんじゃなくて、向きとか距離で解けないか、次回までに考えます。
それと、概算見積をお出ししたので、他社さんの話が、今日は向こうから少し出ました。坪単価は、あちらのほうが安いらしいです。ただ、比べているのは金額だけじゃない感じもあって。うーん、そこはまだ読めません。
あと、これは所感というか、自分の判断なんですけど。K様、感触としては相性が良さそうなんですよね。話していて、こちらの考え方をちゃんと聞いてくださる。なので、まだ設計契約の前ですけど、プランの修正は1回まではお付き合いしようと思っています。二度三度となると、さすがに厳しいので。今回は1回、と自分の中では決めました。
20260715_K様_第5回_記録と所感(修正したご提案)
1階LDKの一角に造作デスクを設ける案をお持ちして、プランの方向はこれで決定となりました。設計契約のお話もしましたが、その場でのご返事はなく「持ち帰って考えます」。窓の位置も保留のままです。
3分03秒
2026年7月15日、K様、5回目の打合せの記録と所感です。今日は修正したご提案でした。
お持ちしたのは、基本プランの2案目と、それに合わせた概算見積、あと概算のスケジュールの一式です。前回、修正のお付き合いは1回までと自分で決めていましたので、これが最終のご提案という形になります。
プランのほうは、1階のLDKの一角に、造作のデスクをつくる案にしました。個室にはしません。ダイニングのすぐ脇に置いて、開いたままです。
ただ、机の向きを家族の動線に対して振ってあって。くつろぐ側の正面からは、画面と手元が見えにくいようにしています。あと、デスクの上にオープンの棚を造作して、仕事道具の定位置をつくる、と。
ご主人が、これならいけそうです、と。奥様も、これなら気配が分かるので、と。プランの方向としては、これで決定ということになりました。
見積のほうは、前回からは大きくは動いていません。個室をやめて造作にしたぶん、少し下がったくらいですね。
それで、今日はそのまま設計契約のお話もさせていただきました。ただ、その場でのご返事はいただけていません。持ち帰って考えます、ということで。
決まらなかったのは、二つあって。一つは窓です。机の正面に窓を取るか、脇にするか。正面だと画面に映り込むのと、あー、あそこ西日が入るんですよね。ただ、脇にすると外の緑が見えにくくなる。ここは保留です。
もう一つは、その設計契約のご返事ですね。いつまでに、というところまでは、こちらからは申し上げていません。
所感です。閉じずに、ひとりになれる、っていうのが、たぶんK様の求めているものの言い方として一番近い。壁で囲えば静かにはなるけど、それだと違うんですよね。配置で解く、というのが今回の答えなんだと思います。
あと、1階を広く取るということは、外の形も凹凸を減らした箱型になっていくので。外観の話も、契約後になりますけど、早めに一度すり合わせておいたほうがいいかもしれません。
それから、これが今いちばん気になっているところなんですが。他社さんと比べられている最中で、金額はあちらのほうが安いんですよね。この状態で、こちらから連絡してご返事を伺うのか、それとも向こうからのご連絡を待つのか。うーん、押した感じになるのが怖くて。ここは正直、迷っています。
以上の3本が、「お客様別ノート」に入っています。ここからが本題です。
2.営業担当が、次の提案を組み立てる前に
まず、営業担当としての使い方です。
「4回目打合せ時に提案した内容」が通らず、修正して5回目に臨む。その修正案を考えている場面を再現します。「お客様別ノート」には、3回目と4回目の所感だけがアップされている状態です。
この状態で、こう聞きました。
次回の提案で、解決しなければならないことは何ですか

左のソース欄をご覧ください。音声は2件だけです。この2本から、こう返ってきました。
1.ワークスペースの配置と「つながり」の再設計
第4回打ち合わせで提案した「2階の独立した個室(書斎)案」は、奥様から「2階に閉じこもってしまうと様子が分からなくなる」と難色を示され、取り下げる方向となりました。そのため、約28坪という限られた延床面積の中で、以下の相反するように思える要望を両立する配置を再提案する必要があります:
・ご主人の要望:フルリモートワークのため集中できる場所が必要だが、完全に「閉じこもりたい」わけではなく、家族の気配はむしろ感じていたい(ただし仕事が家族と「混ざらない」状態にしたい)。
・奥様の要望:ご主人を孤立させたくない一方で、リビングでくつろいでいる時に仕事の音声や画面が干渉することは避けたい。
・設計上のアプローチ:2階は寝室と水回りに集約することが合意されたため、今後は「扉を閉めて隔離する」のではなく、「空間の向きや距離感、緩やかな仕切り」によって、家族の気配を感じつつも仕事に集中できるレイアウトを模索する必要があります。
2.競合他社を意識した「設計契約」の締結
本来は第4回で進める予定だった設計契約の話が、プラン修正のために次回へ持ち越されています。
・他社との競合対策:K様は坪単価のより安い競合他社とも相談を進めており、金額面の比較が発生しています。しかし、K様自身は「金額だけではない部分」も重視しており、こちらの設計思想への共感や相性の良さも感じてくださっています。
・1回限りの勝負:契約前の無料プラン修正は「今回(次回提案)の1回きり」と決めているため、今回の修正プランでK様の要望に完璧に寄り添った設計を提示し、金額以上の付加価値を感じていただくことで、設計契約の合意に結びつける必要があります。
1の最後、「設計上のアプローチ」の行をご覧ください。実際に5回目でお持ちした造作デスク案は、この方向のものでした。
ただし、これは、AIが設計案を考えてくれたのではありません。4回目の所感で、担当者自身がこう言っています。
閉じるんじゃなくて、向きとか距離で解けないか、次回までに考えます
ノートが返してきたのは、前回の打合せの直後に、自分が考えたことです。それが、ご夫妻それぞれのご要望と並べて整理された形で出てきました。
次の提案を考える時、「前の打合せで、何に引っかかっていたのか」をすぐに取り出せることが、溜めておく値打ちです。
3.社長が、いまの進み具合を見る
次に、経営者としての使い方です。営業担当者の所感が3本入っている状態で使います。
この案件は、いまどこまで進んでいますか

答えは、3つに分かれて返ってきました。
現在、K様との打合せは第5回(2026年7月15日)まで終了しており、基本プラン(間取り)の方向性が合意され、「設計契約」の締結に向けたお返事をお待ちしている(検討中)段階にあります。
1.合意・決定した事項
第4回で課題となっていた「ご主人の集中」と「家族とのつながり」の葛藤を解決する策として、1階LDKのコーナーに造作デスクを配置する案が合意されました。デスクの向きを家族の動線に対して振ることで、リビング側から画面や手元が見えにくいように視線をコントロールし、デスク上部には仕事道具用のオープン棚を造作する計画です。
2.現在保留・検討中の事項
第5回打合せの場で正式に設計契約の提案を行いましたが、現在はK様が持ち帰って「検討中」の状態です。回答期限の約束は交わしていません。ワークスペースの窓の位置も、デスク正面にするか脇にするかが未決です。
3.設計担当者(社内)での現在の懸念・課題
K様は坪単価の安い競合他社とも比較を継続されています。「検討します」と持ち帰られた状態から、こちらから進んで連絡を入れてお返事を促すべきか、それともお相手からの連絡を待つべきか、押し売り感が出てしまうことを懸念してアプローチ方法を迷っている状況です。
いま、どの段階か。何が止まっているか。担当者に聞かなくても、分かります。
そして、注目していただきたいのは3番目です。
連絡を入れるか、待つか。押し売りに見えないか。担当者が一人で抱えて、迷っている部分です。
ここが見えていれば、社長は「あの件どうなってる」ではなく、「あれ、こっちから一本入れとくか」と言えます。話が一段飛びます。
回数を指定して聞くこともできます。
4回目の打合せで、決まらなかったことは何ですか

2階の個室案が取り下げになったこと、そのため設計契約の話が次回へ先送りになったこと。そして「2階は寝室と水回りに集約する」という点までは合意されていることまで、拾ってきました。
吹き込みの冒頭で回数を言っておくと、こう呼び出せます。ファイル名にも日付とお客様名と回数を入れておいてください。そこも手がかりになります。
4.終わりに
今回は、3回分でここまででした。これが10回、20回と積み上がっていくと、答えはもっと厚くなります。
打合せは、この後も続きます。設計契約をして、着工して、お引き渡しまで。お引き渡しのとき、そのお客様とのやりとりをいちばん覚えているのは、たぶんノートです。
(→ 前回の記事はこちら)
