Google DX構築編(1)お客様との打合せは、いつから録音できるか

打合せを終えた住宅会社の営業担当者が、スマートフォンのボイスメモに所感を吹き込んでいる様子

前回の記事で、その邸のことは、その邸の場所に、発生した時に置くという話を書きました。今回から、実際にどう始めるかをご案内していきます。

初回は、多くの会社で最初につまずくところからです。

1.先に、答えを書きます

お客様との打合せは、いつから録音できるか。

設計契約からです。

それより前の段階では、録音はおすすめしません。代わりに、打合せの後、「担当者ご自身の所感」をスマホに吹き込みます。

「打合せの録音」が悪いのではありません。「打合せの録音」が力を発揮する時期が決まっている、という話です。以下に理由を書きます。

2.同じ録音が、途中で意味を変える

1)契約前、施主が恐れているもの

初めて来場された方、資料請求の後に初めてお会いした方。この段階の施主は、まだ会社を選んでいる最中です。

そして、かなり身構えています。

ネットにも雑誌にも、家づくりの失敗談が並んでいます。契約を急かされた、契約後に態度が変わった、後から次々にオプション費用が乗ってきた。読んだうえで来場されている方が、いまはほとんどです。

ですから最初の何回かは、提案を聞きに来ているのと同時に、会社・担当者を観察しに来ています。

そこに向かって「本日の打合せを録音させていただけますか?」と切り出すと、どう受け取られるか。

企業努力とは受け取られず、言った言わないの証拠を、先に押さえに来たと読まれるのではないでしょうか。予算の上限をうっかり口にしないよう気をつけよう、と身構えられてしまうかもしれません。

そして住宅の打合せでは、年収も、貯蓄も、親からの援助の有無も、ご夫婦の間で意見が割れている部分も伺わなければなりません。ただでさえ話しにくいことを、記録が残る状態で話してくださいとお願いすることになります。

本音が出なくなれば、提案の精度は落ちます。録音した目的そのものが失われてしまうのです。

2)契約後、恐れるものが入れ替わる

ところが、設計契約を結んだ後、施主が恐れるものは入れ替わります。

会社選びは終わりました。もう「騙されないか」を心配する段階ではありません。代わりに出てくるのが、こちらです。

伝えたはずのことが、伝わっていないのではないか。

コンセントの位置、ニッチの高さ、この壁だけ色を変える話。実施設計の打合せでは、細かい決定が何十と積み上がります。そのうちのひとつが現場に伝わらないまま家が建つことが、施主にとっての最大の悪夢です。

この心配に対して、録音は味方になります。

記録があれば、後から確認できる。確認できると分かっていれば、その場で必死に覚えておく必要もなくなります。実際、この段階になると施主のほうから「録音させてもらってもいいですか」と言い出すことがあります。

目の前のお客様がどちら側にいるかは、担当者ご自身が読めるはずです。設計契約後でもまだ距離を感じる方には、無理に切り出さなくて構いません。

その反対もあります。設計契約を結ぶ前から「記録に残してもらったほうが安心」というお客様もいるかもしれません。その場合は、その方の中でもう気持ちの転換が起きていると思われますので、お客様の様子で判断してください。

それを判断できるのは、現場の担当者だけです。

3.では、それまでは何も残せないのか

1)施主に触れずに取れる一次情報「担当者の所感」を吹き込む

「担当者ご自身の所感録音」は、誰の許可も要りません。

メモに書いても構いませんが、書こうとすると整えてしまいます。喋るほうが、そのまま出ますし、圧倒的に速いです。

そして、ここが大事なところですが——「打合せの録音」では取れない中身が、「担当者ご自身の所感録音」に入っています。

「打合せの録音」に残るのは、決まったことと、確認のやりとりです。なぜそう決めたのかは、施主の前では口に出しませんよね。

「ここで妥協されると後で揉めそうだ」と思ってA案を軸にした。予算を見て、あえて出さなかった提案があった。ご夫婦で意見が割れたとき、どちらも立つ形を探した。

どれも、その場では言葉になりにくい。だから何時間打合せを録音しても、入らないのです。

2)お客様を見送ったら、3分

やり方は、これだけです。

お客様を見送ったら、スマホのボイスメモを開いて、思ったことを喋ります。文章にする必要はありません。順番もばらばらで構いません。

場所はどこでも構いません。誰もいない打合せ室でも、駐車場のご自身の車の中でも。あとで喋ろうと思うと、もう出てきません。見送った後、一息ついてから、速やかに録音します。

喋る中身に迷ったら、この4つを目安にしてください。

  • 今回、なぜこの提案にしたのか
  • 迷った案は何で、なぜそちらにしなかったのか
  • 提案しようとして、出さなかったものはあるか
  • 提案してみて、予想と違った反応はあったか

(車の中で吹き込んだ内容の例)

えー、A様、3回目。家事室をキッチンの横に入れました。奥様が2回目から洗濯物をたたむ場所がないっておっしゃってたので。2階に置く案もあったんですけど、動線が長くなるのと、予算的にちょっと。あと、これは意外だったんですが、ご主人のほうが食いついてきて、在宅勤務の話が出ました。次回そこを広げてみます。

この程度で十分です。全部埋める必要もありません。整えるのは、後でAIがやってくれます。

前回の記事で「工夫メモ」と呼んだものが、この「担当者ご自身の所感録音」なのです。

3)全件やる必要はありません

引き合いの全件でやろうとすると、続かなくなるかもしれません。

目安は、「このお客様は弊社の家を買える」、要するに見込み度の高いお客様と分かった時点から。そこから、そのお客様の記録を作り始めます。

4.設計契約からは、録音が乗る

設計契約を過ぎたら、打合せでの伝達漏れを防ぐために、録音・録画を打診してみてください。すでにやっておられる会社も多いと思います。

ここからは、録音が仕事を減らしてくれます。議事録の下書きが、録音からそのまま出てきます。目を通して、施主にお送りする。ゼロから書き起こす作業がなくなります。

ここで一つ、続けていただきたいことがあります。

「所感の吹き込み」は、そのまま続けてください。

「打合せの録音」が始まったから所感が要らなくなる、という関係ではありません。録音に残るのは「何が決まったか」、所感に残るのは「なぜそう決めたか」。別のものです。

実施設計の段階こそ、判断が濃くなります。この納まりにした理由、この仕様を見送った理由。そこは施主の前では説明しきらないまま進むことが多く、放っておくと誰の記憶にも残りません。

ですから、記録は二本立てになります。

  • 議事録……施主にお送りするもの
  • 所感……社内にだけ置くもの

ファイルを分けておいてください。送付時に消し忘れる事故が起きません。「揉めそうだと思った」は、社内にしか置けない情報です。分けてあるから、遠慮なく吹き込めます。

5.同じノートが、名前を変えて続く

ここまでを整理すると、こうなります。

引き合い 〜 設計契約
所感の吹き込みだけ。(買えると分かった方から開始)

設計契約 〜 着工
打合せの録音 + 所感の吹き込み。議事録は施主へ、所感は社内へ。

最初から最後まで通っているのは、所感だけです。録音は途中から乗ります。

そして記録の置き場所は、ひとつです。設計契約より前は「お客様別ノート」、契約後は「邸別ノート」。呼び名が変わるだけで、中身はそのまま引き継ぎます。

作り直しは発生しません。契約前から溜めてあるので、完成したとき、その家の経緯が最初から最後まで揃っている状態になります。

その記録が、引渡しの後にもう一度使えることは、前回の記事に書きました。

(→ 前回の記事はこちら


今回の話は、何か新しいITツールを買う話ではありません。お客様を見送ったら、3分スマホに吹き込む。それだけです。

次回は、その先をご案内します。iPhoneのボイスメモで録ったものを、Gemini Notebook(旧NotebookLM)に入れるところまで。実際にやってみると、拍子抜けするほど簡単です。

まずは、次の打合せの後から、やってみてください。